「日曜の夜は出たくない」

日曜の夜は出たくない (創元推理文庫―現代日本推理小説)

日曜の夜は出たくない (創元推理文庫―現代日本推理小説)

新刊が出ている中、猫丸先輩シリーズの第一作目を読み返す。
数え切れないほど読んだなあ、これも。もう本がぼろぼろ。疲れている時に読むとホッとします。文章も上手いし。
最初からすごく完成されている文章ですね。記憶にあったよりもぐだぐだではなく、すきっと一本通ってる、スクエアな文章が好みです。
では軽く感想を。


「空中散歩者の最期」……全シリーズの中で、一番主人公が好きです。猫丸先輩のことを普通に慕っている珍しい人ではないでしょうか。東京創元社の陰謀で※※にされてしまいましたが。がうーっ。
夢のシーンで、夜の街を見下ろす文章がとても綺麗で良くて。島田荘司さんの某短編をちょっと思い出します。


「約束」……これもかなり好きです。私は子供が主人公の作品だと、たいてい”こんなふうに子供が思うわけないのでは”といった気分になるんだけど、そんな私が納得させられた作品が、これです。こういう子供もいるだろうなあと感じます。最後、一生懸命話してごらん、って猫丸先輩が言うんだよね。ここがすごくいいなあと思う。
普通だったら、一緒に警察にいっておしまい、なのに、子供にまかせるなんてすごくいいなあと。このラストを忘れていたので、感動してしまった。


「河童」……久々に、あの方言のところも読みました。しかし読みにくい。
この部分は、話の中頃にもってきたほうが良かったんじゃないかな。 いきなりこれじゃあ、思わずこの話を飛ばしてしまいたくならないのだろうか。私だけかな。主人公は自分勝手な奴で嫌いですね。自分で選んだ責任というものを感じないんだろうか。なんでも人のせいにばっかりしてちゃあね。しかしそれとは別に、話は面白いし、扉絵がなんかいい感じで好きです。


百六十三人の目撃者」……演劇物って好きなんです。なんでだろう。有栖川さんの短編でもいいのがあって好きな記憶がある。なのでこの話も読むたびに新鮮な気持ちになれます。
実際に舞台で死んだフリをするようなことってあるのか? とか、布美子が犯人だとしたら、そこまで自分を疑わせるようなことをするのか? とか、本当に濃度の違いなんて分かるのか? と色々突っ込みたいところはあるものの。
文学崩れ、劇団崩れっぽい主人公もなかなか良い。倉知さんの書く、こういうちょっと崩れた感じの渋い男の人が好きです。でもあんまり書いてくれないですね。


寄生虫館の殺人」……本当に悪文だよなーこれ(笑) それでもフリーライターには合ってる性格なのだろう。今回気がついたことが一つ。寄生虫館について30枚の原稿がのるナウなヤング向けの雑誌。……そんなのどこに存在するんだ!?(笑) 売れるのだろうか。猫目小僧(だっけ?)などと形容されているのがおかしかったです。

そして最後のあれは……。推理小説としては、「そういう伏線だったのか」という驚きがあって良いのですが、小説全体としてみると、無い方が読後感が良いのになあと思います。


他の感想も読んでみた
「敬称略の醜聞」
あのセリフ回しを落語調と言っている……確かに。ニッキイ・ウェルトという作家を今度検索してみよう。
「槍沢雑記」
 倉知淳のデビュー作「日曜の夜は出たくない」のタイトルはたまの「かなしいずぼん」からとったのだろうか?
――とのこと。へええ、こっちも今度検索してみよう。
「ひらひら」
感想の文体が、倉知さんの作風に合ってる感じを受けましたー。