光の旅人(ジーン・ブルーワー)

光の旅人 (角川文庫)

光の旅人 (角川文庫)

ニューヨークのある精神病院に三十過ぎの男が収容された。プロートと名乗るこの男は、自分は異星人だと主張する。七千光年はなれたK‐パックスから地球に旅行をしにきたというのだ。ブルーワー医師は、彼を多重人格障害および健忘症と診断した。ところが、彼は豊富な天文学宇宙論の知識を持ち、またその不思議な魅力で他の患者の精神を回復させていく。

プロートが自分が居たと語る惑星K−PAXのイメージは豊かで魅力的で思わず信じてしまいそうな程だし、プロート自身も得体が知れないのに深みがあり魅きつけられる。SFのイメージに満ち溢れていて胸を踊らせながら読んだ。
けど、主人公の精神科医がプロートに催眠術をかけ、段々と謎を解きあかしていくと、結局もう一人の人格だったという結論になってしまう。もちろんそこまでの経緯は面白いんだけど、私としては現代の寓話風に、もしかしたら本当に宇宙人だったのかもしれない…みたいに想像出来る余地も残して欲しかったな。そりゃあ精神科医がそんなことを思ったら終わりかもしれないけど、やっぱり多重人格でした、というオチはつまらないよ……。こういうのは結局好みの問題なんだろうけど、何もかもを理屈で割り切ってしまうのはもったいないなあ。


まあ好きな人はかなり好きだと思う。アルジャーノンに花束を、が好きな人なんかにはおすすめ。
解説で、訳者の風間賢二さんさんがあげていたような、既存の小説をこえる傑出した何か、を見つけることは出来なかったけど、良作だなあと思う。
ただ、主人公の精神科医を好きになれなかったのが痛かった。自分のトラウマ(父親との問題)に決着をつけられてないのは仕方がないとしても、自分の感情を深く理解してもいない人が精神科医なんて、恐すぎる……。
もっとも作者は、精神科医を人間的に未熟な部分がある設定にすることにより、プロートとの対比を浮き彫りにしようとしたのかもしれない。