殺意は砂糖の右側に

再読。龍之介が一番最初に貯金通帳を見て「うわぁ、双子素数だ」って喜んでるところがハマりました。
本書では事件の舞台が、料理会場、ナイトクラブ、飛行機の中、フィリピン、とバラエティに富んでますが、ちゃんとその舞台でなければ起こりえないトリックが使われているのがいい。さらに本書全体のストーリーとしてもつながっていて、その場所にいる必然性があるのが素晴らしい。
最初に読んだ時は文章がやや読みにくく感じたのだけど、今回はそうでもなかった。
どの話も好きです。「殺意は砂糖の右側に」は、料理会場という設定も楽しいし、実験までしたラストイン・ファーストアウト現象がブラフになっているところも厚みが出ている。
「銀河はコップの内側に」では、最後に龍之介が銀河を作るところで、犯罪と関係があった赤インクを使う所に感じ入りました。同じ物を使ってもこれだけ違う現象を起こせるのだなあと、物事の裏と表をきれいに見せてくれた。
「夕日はマラッカの海原に」では、状況が緊迫感があった良いし、そのあとに起こる不可能状況が新鮮です。


トリックは物理トリックが多いので、そこが気になる人はいるかも。
龍之介のほんわかした性格が苦い事件を柔らかく包みこんでいて、読後に何となく心地良くなれる、そんな本です。

「わたしって、時々、狭っ苦しいところでわざわざあがいたりするんですよね。窮屈に思い詰める……。傷口のような狭い隙間を、くぐり抜けつつあるとは思うんですけど……」
たぶん珠樹さんの自殺未遂のことには気付いていない龍之介は、要領を得ない顔をしていたが、それでもやがて言った。
「狭苦しい場所を通り抜けるのも、い、いいかもしれませんよ。細いスリットを通過した後の太陽光線なんて、七色の美しい光で縁取られますからね」p308

――こんな風に事件を明かした後に、ちょっといいセリフを言ってくれます。