死の蔵書(ジョン・ダニング)

ISBN:4151704019
古本掘り出し屋が殺された。古本に造詣が深い刑事クリフは、その知識をいかして捜査にあたるが、やがて暴走し始め――


古本マニア、古本業界が舞台のミステリ。
予想以上に面白かった。紀田順一郎さんの「古本屋探偵の事件簿」みたいなのかなあと思っていたら全然違ってた。殺人は起こるし、しかもハードボイルド。古本をテーマにして、こんなにハードボイルドな作品に仕上がってるとは驚いた。最初は良く出来ているけれども、やっぱり少し地味かなあと思ってたら、なかなかどうしてトリックも盛り込まれていて派手なシーンもあるし、何よりもストーリー運びが上手い。そう、実にストーリー運びが上手いことに感心した。


長編を読んでると、途中で何箇所か「飽きたな…」とだれる所がある事が多いけど、本書にはほとんどなかったです。何か一つ解決すると、次の謎が迫ってきている。東野圭吾さんのストーリー運びを思い出しました。
一つの謎だけで話を運ぶのではなく、三つぐらいのバラバラの謎(物語をひっぱっていく要素)が用意してあるわけです。
それらを絶妙に絡み合わせてストーリーを引っ張っていく。私の好きなパターンだ。この小説でいうならば三つの謎は、


1 大元の謎である、殺人事件の犯人+トリックの謎
謎の女、そして主人公の恋と、相手はどういう人間なのか?というハラハラ感
チンピラジャッキー・ニュートンにまつわるアクションと、それにともなう主人公の立場の変遷。


この三つの謎が、絶妙に入り組んで話の表面に出てくるので飽きなかった。
さらに本書には古本という、本好きにとってはあまりに魅力的なガジェットが至る所に散らばっているわけで、ああ、これは確かに人気が出るだろうな、と思った次第。


主人公も、なんだか変な性格だったけど(別に悪い意味ではなく)、会話が粋で楽しかった。海外の小説を読む時に楽しみにしているものの一つに、ウィットに富んだ会話があるので、楽しい会話を見ると思わずにやっとしてしまう。宮脇孝雄さんの訳も上手で読みやすかったです。

「(略)もっとも、どう思われていたって、こっちは平気だ。そうとも。きみの蔵書を見られたら、それだけで満足だったんだ」
当然、また間があった。十秒間の沈黙。私は口笛で"時間をもてあまして"を吹こうと思ったが、やめることにした。
「あなたってほんとに変わった人ね、ジェーンウェイ」彼女はいった。
「しかし、魅力は充分にある。それだけは認めてくれ」
「そうね」P336

――こんな感じの主人公。はた迷惑な行動をし、すかしたセリフを口にするけれども、有能でタフでなために、カッコ良く見えるという型の主人公が「古書マニア」というのも渋い。