金雀枝荘の殺人

金雀枝荘の殺人 (講談社文庫)

金雀枝荘の殺人 (講談社文庫)

館ものです。グリム童話の「狼と七ひきの小やぎ」に見たてられて、6人の連続殺人が起きます。
館は密室だった。犯人ははっきりと判明していない。その同じ館に亡くなった6人の親族の子供達が集まってくる。


いいねえ、こういう設定。ミステリーの王道で。
この本は読んでいるうちに、妙に恐くなってきました。ホラー小説を読んでるかのように。


出てくる人物が、真里以、冬摩、世範、杏奈などとドイツ風の雰囲気がある名前だし、舞台もそうなのだから、文章ももうちょっと雰囲気があったら良かったのになあと思った。決して下手なわけではなく読みやすいんだけど、あまりにも普通なので少し損をしているような気がします。


途中で闖入してくる「招かれざる客」の彼は、いかにもあやしくてねえ。突然生い立ちを語る所とか。あまりにもあやしいので、これはひっかけと見せかけた、逆ひっかけなのか?などと、さんざん迷いました。


そのあやしい男、中里のこんなセリフが印象に残った。
「面白いというのは言い過ぎだった。すまない。しかし、面白半分という立場はそう悪いもんじゃないんだぜ。気楽だから、それだけ冷静でいられるし、冷静でいれば、物事がより鮮明に見えるものだ。感情をまじえずに、客観的に何でも見ることができるからね」P142


――この台詞は、殺人事件のあらましを聞いて「面白い」と中里が言った事に対して怒った人物への弁解なのですが、うまいなあと。そういう面もあるかもしれない。


メインの密室トリックだけだと少し弱いんだけど、昔にあったもう一つの殺人をなぞらえているのではと思わせたり、複雑な人間関係を上手く絡めて話を進めていっているため、厚みが出ています。そういう所が自然で上手いです。


筆者はこの構成をネバーエンディングストーリーと言ってたけれど、私はむしろ「序章」でしっかりきれいに終わっているのではと思いました。