妖都
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/11/01
- メディア: 単行本
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初読時は上手い文章だと思いながらも、書かれてあることが一体何なのかさっぱり分からなかった。
今回感じたのは、この小説は泥の中から浮かび上がってくる風景を描いているのだな、と。泥の中には、ありとあらゆる物の生まれる前の姿が混沌となってつまっている。その泥が暖められて色々なものが生まれだし、ふわふわと水槽の中をさ迷いだす、そんな風景をスケッチした作品なんだ、と感じた。
まるでパッチワークのよう。つぎはぎだらけで色々な色彩がまじっていて、それでいて全体的には調和がとれている、パッチワーク。
読んでいて美しさを何度も感じたけど、単なる美ではなく、遍く怪奇的なもの原始的なもの、無機的なものが、熔けあって、そのままなら真っ黒くなるはずなのに、何故か一瞬純化される時の輝きの美しさ。けっして澄んではいないのにきれい。我ながら観念的な感想だけど、そんな考えが頭に浮かびました。
初読時は、ラストでランダムに会話が羅列される部分を、なんじゃこりゃーと思ってほとんど流し読みしたんだけれど今回はちゃんと読んだ。そしたら最後の2Pが物語の本質で、全てを表してもいるんだなと感じました。
にしても文体が特殊だなあ。重み、密度が違う。エロでもグロでも日常風景でも、どの部分を書いていても品があった。明らさまに品があるのではなく、そこはかとなく品がある。そして現実から30センチ上で、ふわふわと漂っているような文章でもあった。
文法を見ると、わざとねじっている部分が多数見られるし、改行もせずに数行中で視点人物が移行している文さえある。普通の人がやったらただ単に下手…だし、実際決して読みやすくはないのだけど、総合的には「文章が上手い」という印象なのです。
ところで緑朗さんが誰かに似てると思ったら、保呂草さんだった。しかし保呂草さんのようにはいい目をみないのが、津原さんの男性キャラらしくて泣けたよ。