春期限定いちごタルト事件(米澤穂信)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

なんとも魅力的な表紙。どうやって色を出しているんだろう……。
おそらく本書は人によって受け止め方や、どの要素に注目するかが別れそう。色々な読み方が出来る本です。
日本は「出る杭は打たれる」のことわざがある国なわけで、多かれ少なかれ主人公小鳩君と似た思いをした人は多そうな気がする。
でも、よく考えると「小市民になりたい」というのは嫌味な考え方ではある。自分は力を持っているとまずは自覚していて、なおかつもっと下のレベルに合わせよう、という選択肢を取るわけだから、観察眼の鋭い人にとっては、そのような態度が一番嫌味に感じるはず。信用されてないし、見くびられているわけだから。
作者はちゃんと自覚しているようで、主人公にこの事を堂々と指摘する「堂島」というキャラが出てきます。


主人公達の態度を「窮屈な思いをして大変だろうなあ」と取るか、「若いって自意識過剰だね」と取るかが、私の中では半々なのです。保身のために自分の能力を活かさないのは、端から見ているとあまりいい気持ちはしないけれど、日本の高校生の立場からすると、そう簡単に言ってくれるな、と言いたいだろうなぁとも。主人公達だって大真面目に適応しようとしているわけだし。環境の選択肢が限られてしまうからねこの頃って。でも一過性の事だから大丈夫、うん。
小説全体の雰囲気はどことなく可愛らしく、ミステリ的にも謎が解けるカタルシスが盛り込まれてあり、面白かったです。