楽園 戦略拠点32098(長谷敏司)

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

戦略拠点32098 楽園 (角川スニーカー文庫)

自然と機械の融合」は私が好きな世界観の一つなので、設定や雰囲気は好きでした。草原に突き立っている"柱"とか情景が浮かんできていい。絵もうまくて、見開きのカラーのイラストが好きだなあ。表紙も青い空と白いドレスがとてもきれい。マリアは可愛いね。
だけどガダルバとヴァロアの性格の区別がつきにくかったのと、途中まで事件らしい事件が起きなかったので、やや飽きてしまった。派手な事件らしい事件が起きないのはいいけれど、その場合はレイ・ブラッドベリの"火星年代記"なみの上手さを求めてしまうのであった。キャラをもっと魅力的にするか、得体の知れない謎で引っ張ってくれないとなーと思いながら読んだ。


多分本書は、事件が起きないで進むところが一番の魅力なのでは。環境設定がしっかりしているので、世界観にゆっくりとひたれる。私はのんびりした所で退屈してしまいましたが、人によっては大きく魅かれる部分でしょう。
のんびりとは言いながらも、どこか刹那的な平和、いつか来る綻びを感じさせる描写力が良く、だからこそ何気ない日常がきらめいてます。

青く深くどこまでも広がる空に、波打つ緑の草原。そして、輝く白い雲と、それを貫いて星まで届くような幾百本もの黒い鉄の『柱』。
『柱』は、ここを守るために死んでいった多くの戦士の墓標だ。昔、ガダルバが話してくれた。このひとつひとつがかつては宇宙を駆け、星を砕いた戦船だったのだと。P10

――なかなか自分好みの設定。

「今日はね、東に七つ流れ星が落ちたの」
黙って座っているガダルバに、彼女は話しかける。広角感知センサー網が、テーブルの下で彼女が足をばたばた動かしているのを知覚した。
「あ、また落ちた」
戦闘機のキャノピーから切り出した窓ごしに、夜空を斜めに切り裂く流星が見えた。正しくは個人用降下ポッド。この惑星の防宙線で散った戦士のなれの果てだ。

――環境とのんびりした雰囲気の対比がいいです。