オーデュボンの祈り

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

オーデュボンの祈り (新潮文庫)

孤絶されているのに、外の世界と何故か文化の交流がある」という設定が面白かったです。
まるで「不思議の国のアリス」の世界に迷いこんだ印象を受けつつ読みました。
この印象は、作者に自然と誘導されたせいでもあります。冒頭一行目「胸の谷間にライターをはさんだバニーガールを追いかけているうちに、見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた。」――これ、不思議の国のアリスが「懐中時計を手にしたウサギを追いかけて不思議の国へと辿りついた」冒頭をなぞらえてるよね。
「奇妙な場所」を演出するためわざと書いたのか、それともちょっとしたお遊びなのかな?


本書を読んでいて感じたのは、作者は不安定なものを、不安定なまま、一見安定してみせる手腕に優れているなあと。
出てくる人物は、いい人に見えるのに皆どこか陰の部分、人間としてずるい部分、困った部分を抱えています。「優午」の存在もそう。主人公もそうだね。いい人っぽいのに、コンビニ強盗未遂なんて過去を抱えてる。舞台となる「荻島」は、どことも交流が無い孤立したのんびりした島なのに、残酷な犯罪はしっかりと起きています。
そういう複雑さを多く抱えながらも、世界観やストーリーはしっかり確立されている。多分この世界観は、作者が常日頃世界を見ている視線そのものなのだろうなあと感じました。
ラストは感動しましたよ……島田さんの「異邦の騎士」のラストを読んだ時と同じ気分。こういうのに私は弱い。あーよい。小説って良いなあ! って胸がいっぱいになった。


視点の交代前に、シルエットで人物を象徴する絵がついてるのを見て、X文庫を思い出しました。X文庫にもこの手のカットがよくあったよなあ……とそこまで思い出した時、この小説の世界観は、中原涼先生の「アリスシリーズ」によく似ている! と気がつきました。ああ、どっちも読んだ事がある方なら、きっと同意してくれるはず。平気でカカシがしゃべったり、桜のルールが自然とまかり通ってたり、おとぎ話に似ながら、かなりシニカルな世界観な所。うーん、似ている……。
中原先生の本をまた読みたくなってしまった。勿論、伊坂さんの他の小説も読みたいです。