レテの支流(早瀬乱)

レテの支流 (角川ホラー文庫)

レテの支流 (角川ホラー文庫)

記憶ホラー、脳ホラーです。脳生理学関係の題材が使われてます。
エピソート記憶だ、手続き記憶だ、エントロピーだ、多世界解釈だと一時期の私が好きだったジャンル(今も好きだけど)の単語が、沢山出てきました。
小説としては、今いち設定の整合性が取れてないです。徐々に一つの仮説へと絞られていくわけだけど、その理由の説得力が乏しい。どうしても「この仮説でなくてはならないない」という風には思えない。


あと細かい事を言えば、短期記憶は一度に7つまでしか覚えられないという説がこの小説の大前提になってるけど、「マジックナンバー7±2」のように、通常5〜9の間を取るのではと。7以上が覚えにくいというのは脳生理学ではなく心理学系の議論な気がする(それにこの説も古く、最近ではマジックナンバーは4ではないかという説が多く出てる)
とはいえ、ホラーならそこまで整合性が無くても気にはならない筈なのに、そういう風にいちいち感じてしまうのは、筆力が足りないせいもあるのではないか。
文章自体は下手なわけではないんだけど。

脳生理学的な設定よりは、ストーリー展開自体の方が面白かったです。
死者がよみがえるとか、自分の記憶が他人とずれてきてるとか、息子がイジメで死んでから、一年に一回イジメた人物に葉書を送る父親(しかも学者)とか。この葉書はホラーだと思った。緩やかなダメージだ。こわい。