「UNKNOWN」

UNKNOWN (講談社ノベルス)

UNKNOWN (講談社ノベルス)

重いテーマだと読む前から聞いていたので、身構えてから読みました。最初は雰囲気が明るかったので、あれ? と思ったけれど、確かに最後のほう、胸がどんどんと重くなっていくような気持ちがした。
ああ、なるほどなあ……。
自衛隊について初めてきちんと興味を持ったかも。

もっとも、この本で扱われているテーマは「自衛隊の悩み」だけではなく、「会社の悩み」であるように思います。
日本の会社は、こういう建前、出世、お世辞、年功序列、エリート、などが未だに大きな力を持ってるし。


一つ疑問に思ったのは、主人公の野上は隊の体質を批判してますが、彼自身がちゃっかりこの文化を利用して、適合しているように見える事です。
「利用」は言いすぎだけれど、わりと甘え方が上手い性格にも見受けられるし(はっきり言うとカマトト型に見えるのだが、どうか)、少なくともああいう態度で恩恵は受けてるように見える。
それが悪いとは言わないけど、ただ批判してる場面で自分自身はどうなんだ? と突っ込みを入れたくはなりました。
それまでの主人公の一人称が、いかにも今風の物なれた、"汚いところを冗談でかわす" タイプだったから(万引きもしてた少年だったわけだし)、出世に汲々としている人がいるくらいでショックを受ける所に、ギャップを感じました。
ムカツク感情ならば分かるけど、ショックは受けないのではと。それ程箱入り育ちには見えませんでした。


実際には、組織の悪い所を完璧に無くすのは難しいし、逆にそんな風に思うのも恐い思想なわけで。。


ではどうしたらいいかというと、やはり、そういう人達を責めるだけでなく、自分に出来ることをやるのが、世の中をよくしていく唯一の方法で、だから主人公が自衛隊に留まったのは非常に良かったと思う。
「あー、もっと気に懸けてやればよかったな」とか「これを気に少し仲良く」などの方向で次は考えたらいいだろうし。
朝香さんの手紙はもっともだと思った。


私も、自分のことを振り返ったりした。ふう、実行は難しいね。


野上の性格自体はわりと好きです。
文章は読みやすかった。一人ぼけつっこみ型。所々、笑いながら読んだ。
殺人が起こらなかったのが、けっこうビックリでした。
よく考えると、盗聴だけでここまでミステリとしてもたせたのは凄い。やはり環境が特別だからか。
ミステリのポイント、伏線の回収やレッドヘリングなどもきっちり押さえています。