「幻想と怪奇―ポオ蒐集家」(仁賀克雄 編集)

幻想と怪奇―ポオ蒐集家 (ハヤカワ文庫NV)

幻想と怪奇―ポオ蒐集家 (ハヤカワ文庫NV)


それ程期待せずに読み始めたら、予想をこえて面白かった。 仁賀さんと私の好みは、高い割合で一致していると見ました。
それでは印象に残った作品の感想を……。


「淋しい場所」 オーガスト・ダーレス
大どんでん返しがあるわけでもない。さらっと書かれている。なのに面白い。話の進め方が上手いし日本語訳も上手に訳していると思う。
外国の話だけど、「何かが潜んでいるような場所がぽっかりと存在している」という不気味さは日本的でもある。
国に関わらず広く普遍性がある怖さなんだろうね。
アペリティフにぴったりの話です。「これからホラーな世界が始まりますよ。ようこそいらっしゃいました」と言っているような作品。この作品を最初に持ってくる編集はグットだ。


「ポオ蒐集家」 ロパート・ブロック
にゃは。これもなかなか面白い。なんにせよ、マニアというのは上手く書かれていると読みごたえがある。世界がクローズド・サークルっぽいからかな。そういう閉じた世界の異質さと熱には、魅かれるものがあります。


「すっぽん」 パトリシア・ハイスミス
これはこわい。恐すぎる。こういうひそやかに狂った母親って、結構どこにでもいそうでこわい。
一見まともに見えるのに、言葉の端々に覗く自己中心性。その書き方がとても上手い。
グレアム・グリーンは、この作品を「子供の残忍性を扱って」と言ってるけど、どう読んでもこれは大人の(母親の)残忍性が上手く書けている作品だと思う。子供がやってることは、行為としては残忍に見えるかもしれないけど、残忍というカテゴリには入らないのでは。


「夢売ります」 ロバート・シェクリイ
ラストの着想が抜群に優れてる。たいていの人が、ハッ! となるんじゃないかな。。
想像していたその裏をかかれました。話の進め方も、スマートだし終わり方もスマート。ううん、とにかく読んでみて、としか言えないラストです。シェクリイの本、他にも読みたくなっちゃったなあ。


「無料の土」 チャールズ・ボーモント
あはっ、これなんだろう。奇妙な味? というのとも少し違う気がするし。品のいい皮肉屋なユーモアっていうのかな。ブラック程でもない気がするし。なかなか楽しめました。


「エレベーターの人影」 L・P・ハートリイ
ラストが、こわいよう。想像してしまったではないかっ! 「ずきん」。
ミステリ風味が入ってるせいなのか、日本のホラーに似ている印象を受けました。