「名探偵 木更津悠也」

名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

名探偵 木更津悠也 (カッパ・ノベルス)

香月は計算高くずるい面と、天真爛漫で子供みたいに無邪気な面が、ねじり飴のようにぐるぐるしている印象を受ける。
それはこの本の文体にも表れていて、難しい漢字が文中に狭まっているのに、結びは子供の文のように単純素朴だったり。
一般的にはそういう文章は読みにくいけれど、麻耶さんの書く内容には合っているから、良いのではと思います。
似た感想を、氷川透さんの文体にも持ったような。


最初に題名を見た時は、てっきり「翼ある闇」より過去の事件を集めた作品集だと思っていました。
しかし、そうではない……。しっかりと香月は会長になっている。
なのに香月と木更津の関係や、香月の性格、小説家という所も全然変わっていない。
え、どういう事?
というのが、最大のミステリーでした。
それは読んでいく内に分かってくるんだけどね。
ああ……なる程……香月って、こういうパーソナリティだったんだ。どうやら私は誤解をしていたようだ。
でも納得といえば、これ以上ない程納得です。
まるで非常に優秀なマネージャーみたいだと思った。
もしくは政治家の妻(……が、実際にこういう性格なのかはともかく、イメージとして)
登場人物の名前が変なのは相変わらずです。何か意味があるのだろうか(無い気がする)
白い幽霊の謎は最後に解けるかと思ったら、解けなかったね。香月が殺っちゃったんだったりして。


推理小説としては、「交換殺人」が一番好きです。
交換殺人のバリエーションは、読んでいる最中のリーダビリティが高く、先が気になってしまう。
きっと犯人が1人ではない為、「人間同士の関係・駆け引き」が入ってきて、その分複雑で面白く感じるのだと思います。
小説として好きなのは「禁区」かな。


ところで、香月の木更津(もしくは名探偵)へのあの態度、感情を表すのには「萌え」という表現は意外に近い気がする。
この表現だと、幾分卑近な印象が出てくるけれど。
「萌え」は元々二次元に使われる言葉ですが、香月が持っている感情もそれに近い(やや自己充足的な)印象を受けた。
勿論そういう感情を否定するつもりは、さらさらないです。自分の中にも似た感情はたくさんあるしね。


香月の凄い所は、生身の人間に対した現実的に実行している所だ。
頭がいいのに使い所を間違って……ないか。ないよね、少なくともこの本の中では、うん。
平和的だしみんな満足してるし、良い使い方かも。