仮想殺人(小林栗奈)

仮想殺人 (集英社スーパーファンタジー文庫)

仮想殺人 (集英社スーパーファンタジー文庫)

物語は銀行強盗や誘拐、詐欺、殺人などの犯罪をシュミレーションするゲーム"犯罪者シリーズ"の発売元会社の跡継ぎ者、大樹が変死した時点から物語は幕を開けます。犯罪者シリーズの発売を中止せよ、との脅迫状が届いたり、ゲームと現実の区切がつかなくなってしまう「シュミレーション症候群」なる概念が出てきたり、なかなか面白い。
――久々に本棚で発見して、これ本当に面白かったんだよなあ、読み直してもいいかも。文章も落ちついていて読みやすいし、堅実な雰囲気があったしと読み直しました。最後に動機の面でのどんでん返しがあって、本当の目的を知った時に、ああ、よく考えられているなあと感心しました。


その「犯罪者シリーズ」を作っているのが20歳前の女の子(会社社長の養女)という所はライトノベル設定だけど、それ以外はきちんと堅実な設定で、それほど普通のミステリと変わらない感覚で読めました。思えば、20歳前でゲームを作るというのは、そう非現実でもないかな。


何と言ってもこの本の秀逸なところは、上でも書いたけど、動機。今まで見えていた事件の構造が変わるのと同時に、とある人物の印象もガラっと変わってしまった。そういう構成は好きなので満足しました。
アジモフの短編の「小悪魔アザゼル」最初の話にあったように、復讐のため、まずは愛する存在から作り上げる。
相手を復讐しようとした時、愛するものを送る。ヘンリー・スレッサーの短編も、"好きなものをおくりこんで"身をほろぼす、というのがあった。こういうのは実際の復讐としては難しいけれども抜群に効果がありそうだ。