パンドラ・ケース

ISBN:4167164035
「タイムカプセル クローズド・サークル 首のない死体 脅迫状 連続殺人 同窓生」などなど、好きなシチュエーションが満載な本だった。途中まではとても面白かったけど、後半はちょっとこじつけっぽかったかなと。
前半はまさに"雪の山荘もの"のお手本な雰囲気で盛り上がりました。自分達の仲間の誰かが死んだらその13回忌にタイムカプセルを開けようという設定も普通じゃなくてワクワクしたし、8枚埋めた新聞記事のコピーが、カプセルを開けたら13枚に増えていたあたりなんて「13枚ある!!」と一人で快哉をあげながら盛り上がった。


そのあと この記事を巡って推理が展開されるのですが、うーん細かい設定はとてもいいけど、それを貫く論理展開が、しばしば強引になるのが惜しい作品だなあと思いました。
でも、本書に出てくる首のない死体は、首が無い意味が一応きちんとあったのが良かった。意味があったけど、この犯人はなんというか。
パンドラの性格設定とかも、なんだかなーって感じだし(チョーサクが、ことあるごとに酷く言ってるので、さらに何だかなーって感じだ)こう、"パンドラ・ケース"という題名にふさわしく、最後に希望が残るような仕掛けを、彼女がしてたのだったら良かったのにな。パンドラがいたずらか何かを仕掛けたという設定とか。そういう少しファンタスティックな動機・失踪理由だと思ってたら、あんな現実感溢れるどろどろな理由だとは。


本書では心理戦に多くページが費やされているのですが、埋めた新聞記事で、そこまで深層心理を探られたら、たまったものではないよなと思った。それを言ったら心理戦にならないのだけど、ちょっと話のもっていき方が強引なのが気になりました。そもそもトゲトゲした雰囲気に持っていってるのは、チョーサク一人なのだけど、結局彼って何者だったのだろう?
口では威勢のいいことを言ってるけど、肝心なところで役に立たないし、怯えるわ、逃げようとするわ、吐くは、いたずらに雰囲気を悪くするわで、えらいヘタれっぷりにかえって驚いたよう。通常こういうカッコつけたセリフを吐くひねくれ者は、それなりに活躍したり去勢を張るものと相場は決まってるのに、チョーサクのの立ち位置って、変だ……。まあある意味現実的なのかもしれない。


さてさて私が、本書に大いなるリーダビリティを感じたのは、フーダニット以外にも、"何故殺したのか"と、"増えた記事には何の意味があったのか"と、"パンドラはどうして失踪したのか。生きてるのか死んでるのか"という謎が魅力的だったからでした。こういう風に気になる謎があちこちに散りばめられていると、先を急がずにはいられなかったです。リーダビリティの高い本でした。