ストリート・キッズ

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

ストリート・キッズ (創元推理文庫)

副大統領候補の娘を探してくれという依頼に元ストリート・キッズのニールは気がすすまないまま依頼を受ける。やがてその娘に出会うのだが……


訳者の東江一紀さんが解説で言ってるように、コントロール抜群の荒れ球投手。
バランス感覚にすぐれている。
この小説の面白いところは、基本的には悪人の立場の人ばかりが出てくるのに、どの人物も描かれ方が、ちょっとずつ甘いほうへ、まるで味方のような表現にズレていくところ。完全な悪人のはずのコリンだって、あれじゃまるで憎めない。主人公が嫌っている上司のエドレヴァインも、あれでは「一見こわもてで口が悪いが頼りになる人」、な書き方だ。
作者意識してるというよりは、無意識のうちに、少しずつ甘い方にずれていってる滑っていってる、なんかそれが興味深かったです。
魅力的なキャラクターにどこに転がるか分からないストーリー。そして豊富な探偵の知識。面白かったです。


バランス感覚を感じる本書ですが、計算して書いたというよりは、本能のおもむくままに書いた、渾身のデビュー作、といった印象がある。実際に本書はウィンズロウのデビュー作なのですが、もしも私がリアルタイムで読んでいたら「この小説はすばらしいけど、2作目以降続くだろうか」って心配したと思う。
この小説には、作者の今までの人生や色々な経験が詰まっていて、セーブされてない、という印象を受けた。


たとえば島田荘司さんの「異邦の騎士」がデビュー作だったとして、リアルタイムで読んだとしたら同じようにこの先書けるだろうか、と思っただろう。それだけどっちの小説も生の迫力あって素晴らしいからなんだけど。実際には島田さんの活躍は皆の知る所だし、ウィンズロウもこの作品以降も次々とヒットを飛ばしているようです。