悪党どものお楽しみ

悪党どものお楽しみ (ミステリーの本棚)

悪党どものお楽しみ (ミステリーの本棚)

前からの続き。
無邪気さと皮肉さが、いい具合でミックスされているのが読んでいて快い。
トニーは働く必要のない名家出身で、働かない事をとがめられる事は無く、後ろめたく思う心理も全く無い。そういう大らかで無邪気な雰囲気にひたれる所が、本書の大きな魅力です。反対にビルの人や物事を見る目の鋭さもいい。
いかさまトリックを小説の素材として書く時の、物語との絡め方がどれも素晴らしい。「手際がいい」というか、使い方が上手い。センスがあるなあ。
訳は直訳調でやや読みにくかった。でも本書の時代や風景にはよく合っています。


・良心の問題
解説にもあったように、真実が明るみになった途端に物事の様相がガラッと変わるのがすごい。さらに最後のビルのセリフで、もう一つの真実が分かる所がまた格好いいんだ。ビルは大人だなあ。
人のために奮闘しているトニーも可愛い。

・ビギナーズ・ラック
この話でのトニーのお馬鹿さ加減は本当にかわいらしいし、何よりもストーリーが起伏に富んでいて一番のめり込んだ。トニーの行動の意味が分からないので色々考えてたら、そういう理由だったのか。ビルはやる事がいちいち渋いよ。電報がここでも話におかしみを添えています。
今までビルはトニーを邪険にしていたのに、「そして何ヶ月にも及ぶ説得の末」までして、トニーを家まで連れてきたなんて、いつの間にそんな親しい仲に? と少し動揺してしまった。ビルは25歳でトニーは33歳だなんて、どっちも違う意味で見えない……。

・火の柱
種明かしが分かるまでは本当に魔法みたい。犯人をやり込める所が気が利いているし、ちゃんと犯人の立場も考えるビルの懐の深さにも感心。親友の不調に、深刻に落ち込んだりやきもきしているトニーがまた可愛い。
ああいいなあ、このシリーズ。好きだ。

・アカニレの皮
うう、トリックに気がついても良さそうなのに、気付かなかったのが侮しい。
もっと続いて欲しかったシリーズ。