逃亡作法 TURD ON THE RUN

逃亡作法 TURD ON THE RUN (宝島社文庫)

逃亡作法 TURD ON THE RUN (宝島社文庫)

共感能力がばっさりと欠如していて、かわりにバランス感覚が発達している本でした。
最初は自分に合わないかなあと数ページ読んで中断してたのだけど、再開して物語が動き出す所から面白く最後まで一気読みしました。
この本には、他人への共感能力を持っている登場人物が一人として、出てきません。
主人公達一味も、敵対する組織も、子供を殺されて復讐を誓う親達でさえも、自分以外の人の気持ちや立場を推測することなど思いもよらぬようです。
それでいてそう酷く嫌な奴に見えることもない。これはひとえに本書のバランスが絶妙だからでしょう。登場人物、プロット、名前のつけ方、などなど、偏よりすぎないよう重くならないよう、風通しが良く配置されています。


また、彼らは仲間内の特別扱いもあまりしない。自分達のグループにはめちゃ甘く団結していて、外のグループの気持ちには頓着しない、というのは良くある事ですが、本書では仲間内にもドライで、べたべたと大切にしたりはしていない。そのせいで雰囲気の湿度が低くカラッとしていて、酷いことをしても粘着的に見えず、ついつい自然に読まされてしまいました。


文章は、必要なことを説明しないでパッと場面展換する、ニュー・ウェーブSF的な文章。一部意味が通りづらく、読み終わってから軽く再読してしまった。
川原みたいな変態犯罪者は、仲間になっている間は犯罪をおかさないのが基本(私が今まで読んできた小説や漫画では)なのだけど、しっかり犯罪をおかしているのに感心してしまった。いや、犯罪そのものには嫌悪を感じますが。こういう本は子供がいないうちにしか読めないだろうなあ。
スピード感がある小説が好きな人に向いてる本です。