最長不倒距離

ISBN:4334730183

スキー宿をかねた温泉宿からの「幽霊をまた出してくれ」との珍妙な依頼に、物部太郎が相棒・片岡直次郎と赴くと…。野天風呂で女性が裸のまま殺される騒ぎのなか、殺されたはずの女性からの電話!?密室での新たな殺人事件、不可解なダイイングメッセージ…。

題名の「最長不倒距離」の使い方が意味無しジョークのようで面白い。
本書はこういう「お遊び」「くすぐり」が随所に狭まれていて、そっちに気を取られていると勘心なことを見落としてしまう。例えば線香の悪戯が、ワトソンのせいだったというのは画期的だ。おまえなあ・・(脱力)
細かいことが有機的につながっている構成が良かったな。「シュプール」みたいに事件と関係ない部分も、本に厚みを加えている。
最後、犯人が結局自滅的に飛び出したという落とし方はつまらないなぁとか思っていたら、どんでん返しがあって終わり方にも満足。あのテープは役に立たないような気もするけど。犯人は強情な人物で気に入りました。是非最後まで頑張ってもらいたいです。


そして登場人物の一人、布施さんのセリフにけっこう感心することが多かった。彼はいやらしい悪戯をする困った人なのだが、ひねくれてるぶん台詞が面白い。

「むしろ、お坊ちゃまだから、怖いのさ、わからないかな。頭がよくって、親がよくって、なんでも思いどおりになってきたもんだから、自分にも弱さがあるってことを知らない。そういう人間は、怖いもんだぜ。思い切ったことを、やりかねない」

とか、あとは人を殺すということはたいした罪ではない、という論理も荒唐無稽ながらある種の説得力がある。
読んでる最中、殊能将之さんの『樒/榁』と似てるなー、もしかしてこれがパロの原本なのか? と思ってら、殊能さんの日記に、温泉用語の参考に「最長不倒距離」を読み直したという記述があった。そうそう用語も豊富で参考になる本です。あとは、小野不由美さんのゴースト・ハントシリーズの名前の元ネタも多いです。所長がものぐさなところもぴったりだ……。


個人的には、太郎と直次郎の性格が似てるのが困りました。途中でどっちがどっちだか分からなくなってしまった。本書ではワトソン役の直次郎は、他の短編では主役を張ってるので、そういうことが起こったのかも。


本書の解説が赤川次郎さんなのですが、赤川次郎さんにしては意地が悪い文章なので、気がつかなかったよ。ということは、よほど本書が好きなのではないかと感動しました。
探偵がものぐさでいい加減で、事件の過中でも温泉に入ってだらだらしているので、そういう雰囲気が好きな人はハマるかも。