ラッシュライフ

ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)

ラッシュライフ (新潮ミステリー倶楽部)

なる程、著者の書く作品はカオス理論が元になっているんだ……と、まだ2作目ですが本質が少し見えた気がしました。相変わらず磁力のある文章と、「ピースを合わせたい」という欲求がぐんぐん高まっていく構成です。
ただ、どの人物がどこに関係してきて、どう影響し合うのか、という仕掛けが分かりやすく、謎の人物として登場してきても、「あ、きっとこれは、あの人だろう」というのが分かるように書かれているのが少し残念だった。
ピースが合わさった時に、何のカタストロフィも起きないんだよね。ただ関係がつながって絵が完成して、現実はそのまま過ぎていく。各ストーリー自体は終着していなく、一瞬のすれ違いがあっただけ。「エンドマーク」が着かない。
そういう所は文学的でもありますが、各ストーリーが全部集まった時の何らかの化学変化を期待していた私には不満でした。


さて本書を読んでいると、チュンソフトの不朽の名作ゲーム、「街」を思い出します。渋谷という同じ空間で同じ時間軸上に複数の主人公が同時に存在していて、プレイヤーが好きな主人公・好きな時間を選んでプレイすると、他のストーリーでは主人公だった人が脇役として登場したり、ただの通りすがりとして登場したりします。
選んだ選択肢によって、現主人公だけではなく、違うストーリーの主人公の運命までもが変わってしまう所が面白いゲームでした。

やはり「自分で選べる」面白さがある分、この手の構成はゲームとして作った方が動的な感動があり有利です。媒体が違う小説とゲームを比べても意味はないかもしれないけれども。
各人物のエピソード一つ一つは読ませるのですが、あと何か一つドンデン返しや、全体を貫く仕掛けが欲しかったです。