神狩り(山田正紀)

神狩り (ハルキ文庫)

神狩り (ハルキ文庫)

古墳で見つかった「古代文字」。だが2つしかない論理記号といい、人間が使える言語ではなかった。
ではこれを使っていたのは「神」なのか?
――という「神」と「言語」をテーマにした、言語学SFです。
スケールの大きいエンターテイメント作品で山田正紀さんのデビュー作でもある。
気宇壮大なストーリーながら、発見された古代文字が何故人間には使え得ないのか、きちんとした設定がある所が気持ち良い。


発見された古代文字は、言語に存在する「普遍的条件」がごっそり抜け落ちてたものだった。
2つしかない論理記号、反対に13重にも入り組んだ関係代名詞……。
人間の脳は必ず五つの論理記号を持っています。
「そして」、「ならば」、「あるいは」、「でない」、「必然である」
の五つのどれが欠けても人間の脳は論理を操ることができない。なのに発見された古代文字は二つの論理記号しか持っていなかった。
二つの論理記号のみで文章を書ける、つまり論理を操れた、という事である。
この事が示すのは言語が違う以前に、人間と論理レベルが違う……つまりそのような存在が我々と「同じ世界」に存在出来ることはありえない。
そう「神」の世界でなければ……

ここら辺は記号論理学とも関係してきますね。うーん、専門書を読みたくなってきました。


キャラクターは、ややオーソドックスというか単純で、今読むと古くさいと感じる点はありましたが、枝葉末節にとらわれず物語に集中出来る働きを成しているのかもしれません。
プロローグには、ウィトゲンシュタインが登場人物として出てきて、おおー、とそれだけで盛り上がる私。

――語りえぬことについては沈黙しなくてはならない。
だが、今、その語りえぬことについて、語らなければならない時がきたのだ。たとえ、そのために新たな呪いを受けることになろうとも……。

……と、ウィトゲンシュタイン本人が述懐する、なんとも興味を魅かれるプロローグで物語は幕を開けます。
ラストが唐突な所で終わっているのですが、この終わり方も気に入っていたので、作者が疑問点に答えている解説は蛇足のようにも感じました。
余談ですが、この作品をいつも川又千秋さんの「幻詩狩り」と間違えてしまう……。