S‐Fマガジン・セレクション〈1988〉(早川書房編集部編)

こんにちは赤ちゃん(東野司)
クローン再生で作った人形の赤ちゃんを買った夫婦の話です。
しかし人形といえどマニュアル通りにいかなくて……。
この先がどうなるのか心配ではらはらして、一気に読んでしまった。面白かったです。
主人公に好感を持てるし途中の展開も好みだったので、他の本も読んでみたい。
でも最初にある一ページ解説は、蛇足なのではないかな。
「なかなかに感動的な結末も用意されています」と書いてあるけど、感動的な結末と言うには疑問が残ります。
仮に解説者がそう感じたとしても、読み手の受け止め方に文意を委ねるたぐいの話ではないでしょうか。

射性(神林長平)

紫が濃くなって缶の底が見えにくくなった。
背後で日が沈もうとしている。

――書き出しです。やはり格好良くて渋いよなあ。こういう調子で進んでいく神林さんらしい話です。

セカンド・タイム・アラウンド(鏡明)
話の展開に感心しました。2033年に生きていた男が、気がついたら2066年にいた。元々2033年に居たのがミソで、そうなるとコールドスリープ? タイムマシン? 遺伝子?などと可能性が広まる。しかし何よりも最後の一文が優れている。はっきりとした結末は書かれてないけど、明らかに分かる彼女の意図。恐いねえ良いねえ。

いちばん上のお兄さん(柾悟郎)
書簡ミステリ。古い日本の文体がそれだけで引っかけの役割を果たしている。
最後の一文で「あっ」と言ってしまった。
走馬灯(栗本薫)
「地球が走馬灯を見ている」というアイディアが秀逸です。はかなくも美しい。


――解説によると、1988年はウィリアム・ギブスンが来日した年だそうです。サイバーパンク特集がSFマガジンで組まれたのが1986年なので、あっという間に広がったのが分かります。