暗闇の終わり(キース・ピータースン)

暗闇の終わり (創元推理文庫)

暗闇の終わり (創元推理文庫)

同じハイスクールに通っている生徒が3人、立て続けに自殺をした。だが調べていくうちに、自殺にしては不自然なところが出てきて――
という話です。
一人の人間の真実はどっちだ? と掘り起こしていく話でもあります。
父親は、完璧な子供だと誇っていた。だけど母親は涙を流しながら言う。


「あの子には無理だったのよ……フレディには。あの子は……そういう子じゃなかった。あの子には……こたえられなかったのよ……何もかも。わかるでしょう?」

――真実はどちらか。
どたばたと派手な立ち回りはない。その代わりにこの小説には激しい感情の波がありました。主人公と共にある喜怒哀楽の差が強烈で、盛り上がったり、落ち込んだりが周期的に来ます。
それは主人公の造詣の上手さにも一因があります。主人公には過去に自殺した娘がいて、現在起こっている事件と類似点が多く、どうしても客観的ではいられないのです。しかし新聞記者という職業柄、客観性を失い一人暴走するわけにもいかないジレンマ。
派手なアクションを使用せず、主人公の感情で緊迫感のあるシーンを作り、物語に波打つうねりを作り上げていくというのは、良い組み立て方だなあと感心しました。
感情移入するし、最後に非常に盛り上がる。


犯人が分かるところは少し唐突な気がしました。
ストーリーも纏まっていて、キャラも良いけど、唯一文章が読みにくく慣れるまで苦労しました。決して翻訳が下手なわけではないから、きっと相性なのだろう。
さて、この小説は会話がハードボイルド調で好きです。一部抜き書きすると、

「ええ、そうよ。そうだけど、その汚い指をわたしの顔のまえからどけてよ。いったい自分のこと何さまだと思ってんの?」
わたしは彼女に何さまか教えた。

「何様だと思ってるんだ?」「俺様だ」タイプの文章。好きだー。

「わたし、看護婦をしているんです。よく友達に言われるわ、人のことをあれこれ言い過ぎるって。さっそくあなたにもそうしてしまったみたい。まだ、初めましても言わないうちに」
 彼女はそう言って水の入ったグラスを渡してよこした。
「どうも初めまして」とわたしは言った。
「初めまして」

女にモテそうな主人公です。

「マッケイ、彼を止めて」
そのときにはマッケイもわたしの横に立っていた。
「ウェルズ――」と彼は言った。
「無駄だよ、そんな声で"ウェルズ"なんて言っても」
「ジョン――」

そしたら名前かい(笑)マッケイ萌え。
マッケイは穏やかなのに、ウェルズ(主人公)のために反論していたりして、良い友人です。
こういう会話の数々は、一歩間違えると気障になったり浮いてしまうものですが、よく合っていました。