奇術探偵曾我佳城全集 戯の巻

奇術探偵 曾我佳城全集 戯の巻 (講談社文庫)

奇術探偵 曾我佳城全集 戯の巻 (講談社文庫)

※ネタバレありで感想を書きます。再読です。

「ミダス王の奇跡」
この話を発表当時に読んだ人の中で、真の仕掛けが分かった人はいるのか、とても気になります。今、「よし子」が佳城だと分かってから読むと、 楽に引っかけ部分を拾う事が出来ます。
例えばこの本で出てくる”佳城”は、外見の描写がいつもと微妙に違う。「佳城」というのは、絵の雅号を見た酔っ払いが勝手に勘違いをしただけであり、当の”佳城”も決して積極的には認めていない。「酔っ払いには逆らわない方がいいですよ」「そうね。わたしも悪い気はしないから」「よし決まった」という風に、その場のお遊びとして認めている。奇術もしていない。
しかし、話の最後で見事に推理をしているので、にせ物だったと見破った人は熱心な読者でも少なかっただろうなあと思う。
一方、「よし子」は確かに推理の手助けとなるような行動をしている。しかし、まさかね……。佳城だとは。
よし子が佳城だと思って読むと、この短編は刺激的というか何というか、もう少し描写を抑えて欲しい気もする。
それにしても、この短編を作る際に必要な伏線と技術を思うと、感服する他はありません。


そして最後の話、「魔術城落成」。残念なのは、佳城が犯罪者になった事ではなく、こんなつまらない男の為に!という感情の持って行き場がないことです。
探偵の恋の相手といえば、泥棒、知能犯、といったパターンがあるけど、それくらい危なくも賢い相手じゃないと、探偵にふさわしくないから納得です。でもこのイサノさんは。。。
まあ、相手はどうでもいいとして、佳城自身の描写を、もっと毅然として犯罪を実行した的に書いて欲しかった。善悪も分からなくなり、殺してしまったというのはちょっとね……。

でもラストのページの場面は、別の意味で華々しくていいかもしれません。ついに天女になったのだな、とずっと噂されていく事でしょう。
落成」とは、建築工事のできあがることだそうです。二重の意味でこの話にふさわしい単語です。
ここまでシリーズとして大がかりな伏線があり、それをきちんと回収した手並みは、シリーズが費やした年月から言っても圧巻です。これからも何度も読み返したい本です。