幻燈の世紀―映画前夜の視覚文化史(岩本憲児)


幻燈、写し絵、ファンタスマゴリア、カメラ・オブスクーラなど、さまざまな視覚・光学装置が彩った「光と影」の歴史について書かれています。
西洋の項もいいけど、特に日本の幻燈史についてページがさかれていて、江戸や明治の幻鏡を使った遊び・からくり的なものの詳しい歴史を知りたい人、もしくは江戸川乱歩的な「光と闇」の世界が好きな人には満足出来る本だと思います。内容も充実していて良書です。
絵や写真が多く載っている所も、大きく評価したい。


西洋では幻燈は娯楽的要素がありつつも、科学的情報や宗教活動など、娯楽的側面を利用しつつ、社会的な広がりを持っていました。
でも日本での幻燈の使用は、江戸時代の「写し絵」を除けば、ほとんどが気晴らしの娯楽的利用や情操教育にとどまっており、西洋風の多様な題材――とりわけ知識の伝達や科学的題材――が入り込むのは、明治期の西洋の幻燈が再渡来して以降でした。
著者も言っているように、幻燈は光だけでなく闇と影の存在があってこそ魅力を持ってその光を輝かせています。その両義性が人々の想像力を喚起し、様々な物語を生み出す源泉となったのでしょう。今では影の存在を感じさせない人工的な光が世界を席巻してますが、この光と闇の両義性は失われたわけではなく、色々な物事の中に今でも潜んでいると思っています。