法月綸太郎の功績

法月綸太郎の功績 (講談社ノベルス)

法月綸太郎の功績 (講談社ノベルス)

法月さんの作品に厚みがあるのは、ブラフが豊かだからではないか。ようは、ひっかけになったりして、借しげもなく捨てられてしまうアイディア。これがなかなか面白い。このブラフをたくさん披露するためには、法月親子の会話が重要になってきている。
再読です。では軽く感想を……。


イコールYの悲劇」……話の進め方がうまい。「第三者を入れて、夫婦のもたれ合いを見えなくした」というのは、感心した。


都市伝説パズル」……法月さんの小説には「パズル」という言葉がよく似合う。この話も論理的に謎がとけます。なんで気がつかなかったのだろうかと侮しかった。最初の方にいかにももっともらしく、都市伝説の怪談が出てくるので、完全に注意がそっちにいっちゃったんだよね。もう作者の思うツボです。


ABCD包囲網」……”ブラフが豊か”な典形的な例です。
一連の事件の背後に、他人の心を自由自在に操れる魔術師みたいなやつが潜んでいて、地図のパターンに沿って被害者を選びながら、マインドコントロールして殺人や自殺を起こしているとか。


最終的な犯行現場に宿敵の刑事をおびき寄せるために、連続殺人に地図上の直線パターンを与えたとか(これはボルヘスのらしいけど)。


何度も自白を繰り返す事により、本当に殺人を犯した時に、捜査の手をのがれようとしたとか。(この手のオチの作品は実際に沢山ある気がする。泡坂さんの「奇跡の男」とか、佐野洋さんの「投書狂」などなど。どっちもバリエーション豊かではあります)
どのブラフも、「ミステリ作品」としては、本当にありそうなのばっかり。


この作品も、「イコールYの悲劇」と同じで、夫婦の共犯だったわけだけど、またしても気がつかなかった。仲の悪い夫婦はミステリの定番なので、その逆がなかなか思いつかないんだよね。あとは法月さんの描写が上手いのもあるけど。


Whyダニットは、最後まで飽きさせないので、好きです。


縊心伝心」……話の中心となる謎が、殺人の謎ではなく、「盗聴器」という後から出てきた謎と関係していたのが、なんとなく残念だった。たとえるなら話の中盤以降に出てきた人物が、犯人だったようなそんな感じ。


全体的に、推理小説を読んだなあという満足感を味わわせてくれました。レストランで食べたかった注文通りのものをきちっと出してくれて、満足、といった感じです。