追憶売ります(フィリップ・K・ディック)

この題名からして私は、レイ・ブラッドベリみたいな、ちょっと感傷的な話なのかと思いました。
「地図にない町」に似た雰囲気で。

ところがどっこい! 読んでみたらまあこれが痛快だし、二回も話がひっくりかえされるしで、まれにみる傑作でした。
凄いよ、ディック!!


この本は、映画「トータル・リコール」の原作でもあります。今回は再読で、一回この作品を読んだあとに映画を見た事があります。


いわゆる「仮想現実」が主題の話です。「トータル・リコール」社は、仮想の記憶で疑似体験が出来る会社なんですね。
平凡な主人公は、ちょっとスリリングな仮想体験でもするかと、トータル・リコール社で「秘密捜査官として火星に侵入」というシナリオを注文します。
ところがにせの記憶を植えようとした事がきっかけで、眠っていた本当の記憶が浮かび上がってきます。
なんと彼の本物の記憶とは、まさに「秘密捜査官」……スパイだったのです。
しかしその眠らされていた本物の記憶が蘇った事により、主人公は命が狙われる事になります。


もう、この設定だけで最高に面白いよね。でもそこからも、さらに話は二転三転。短編なのに密度があります。
こういう感じのSFはいいなあ。アイディアマンだねえ、ディックは。


「現し世は夢、夜のゆめこそまこと」的な設定にはひかれるけど、色々読んでるので想像がついたり、ラストがすっきりしない話も多い。でもさすがに、ディックの十八番。楽しませてくれました。


短編は登場人物の心理をそれほど掘り下げない方がテンポがいいんだ。という事も思ったりした。
マイノリティ・リポート」に収録されています。