「時計館の殺人」

時計館の殺人 (講談社文庫)

時計館の殺人 (講談社文庫)

急にクローズド・サークルものが読みたくなって、選んでみたのがこの本。うん、大成功! 全ての条件を満たしてると言ってもいいくらい。

この本を読むのは、これで5回目くらいです。
最初に読んだ時は、ただただ眩い世界が広がり、そして崩壊していった事に目を奪われ、呆然としていました。一体何が起こっているのかもよく分からなかった。
でも、何度も何度も繰り返し読んでると、最初は遠い遠い天上にあるとしか思えなかった本が、だんだんと近くに降りてきてくれる気がする。今そんな感じです。
ようやく「小説的に」何が起こっているのかが分かった。

たいていのミステリは、再読する時には客観的に伏線を確認しながら読むものだけど、5回目に至るまで、そんな事をさせる余裕も無く「小説の中の住人」にしてしまったこの本は、やはり小説として一級品だ。
その大がかりなトリックよりも何よりも、「ストーリーテーリング」の力が、この本は強いと思う。


もう何度も読んでるのに、今回もなかなか止まらなかった。
「お姉さんを殺さないで」と言って出てくる美少年、「ここから立ち去れ」と脅しをかける老占い師。もう、しょっぱなから、雰囲気は最高!
盛り上がります。


「潔癖」な、と形容したくなる綾辻さんの文体と、テーマがとても上手く一致していて、最後のシーンの美しいこと。
外国によくあるミステリと違って「正義」で押していかないところも、かえって好ましい。
人が死にすぎなのは悲しいけどクローズド・サークルものとしては盛り上がる。瓜生さん、ちょっと好きだったので、ああなってしまった時は悲しかった……。

それにしても、江南君の役に立たない事よ……。夢だと思うは、隠し通路がある事を言わないわで。ふう。何回も読むとさすがに気になってくる。


しかし、本当にクローズド・サークルものって、面白い。 私好みなことを再確認しました。