華麗なるギャツビー(フィッツジェラルド)

再読。
いつでも華麗な舞台の主役なのに、決して手に入れられない一人の人を追い求めているギャツビーの物語です。
ギャツビーが主人公の前に現れるまでの話の持っていき方が本当に上手。
主人公のニックは、ギャツビーとは正反対の、良識的な人物。そんなニックに聞こえてくる、ギャツビーの奇妙で非常識な噂。
ところがある日、偶然ニックは海でギャツビーらしい人物を見かける。

 だが実際は声をかけなかった。独りぼっちでいいんだ、といきなり彼がそれとなく知らせてよこしたからだ──
つまり、暗い海に向かって、変なふうに彼は両腕を伸ばした。僕は離れていたのだが、誓ってもいい、彼は震えていたのだ。思わず僕も海のほうに視線を投げた──だが、桟橋の突端なのだろう、小さく遙か遠くに、ぽつり緑の灯火があるだけで、ほかには何も見わけられなかった。もういちどギャツビーのほうをみると、彼の姿はもうそこになく、僕はまた一人、騒々しい闇のなかに取り残された。


 ──うわー、ギャツビーラブ。と一瞬でギャツビーのとりこになってしまった文章です。身を切られるような「孤独」が上手く表現されている……。


ニックが出席したパーティー会場では、ギャツビーは人を殺したのかもしれないという物騒な噂が流れている、得体のしれない人物だという認識が共通している。 そこへ、ニックに話しかけてきた一人の男がいた。ひとなつこいほほえみに、丁寧な口調。少しだけ距離をおいて、

"「僕がギャツビー」彼はいきなり言った。"

――うーん、面白い。

ギャツビーはどういう性格なのか、そして彼は何を求めているのか、何が目的なのかが、だんだんと分かってくる所がミステリ的でもあります。
最初はややとっつきにくいけど、特徴のある美しい文章も小説を引きたてている。お気に入りの小説です。