シクラメンと、見えない密室

本格ミステリしてます。とても楽しんで読めました。題名から本格ミステリよりは、もう少し一般小説寄りかと想像していたら、かなり質の高いトリックが使われていて驚きました。
「遠隔殺人とハシバミの葉」では、怪しげな呪文が、犯人を罠にかける為の巧妙なトリックだった事に感動しました。これは上手いね。怪しげであればある程、実は論理的な理由があって、このような効果をもたらしていたのだと分かった時の驚きと感動が大きい。


「オークの枝に、誰かいる」では、語り手(主人公)の性別が明らかになった所で「あれっ?」と。何故私は語り手を女性だと思い込んだのだろうか。一人称が「私」は男性でもありえるし、特に性別が分かる会話が書かれていたわけでもない。なのに私は「女性」だと何の疑いもなく決め込んでいた。
これってどうして……? とパラパラとページを遡って分かりました。

『三十三の私より、少しだけ年上という年齢のはずだが、この人には、私より若々しい肌をしていると思わされる時もあるし、逆に、なんて成熟した雰囲気や知性を感じさせるのだろうと感心させられる時も度々あった。P166』


「私より若々しい肌をしている」の一文だけで、意識しない程自然に、語り手を女性と思い込んだのだ。肌を他人と較べるのは女性ならではの習性だから。
レベルの高いミスリードだなあ……。性別誤認の描写としてはぴか一です。
「おとぎり草と背後の闇」では、物理トリックに加え、被害者を追いつめるための心理トリックが光ってました。


物語のラストシーンは、加納朋子さんの解説から察するに、萩尾望都さんの「ポーの一族」をイメージしたのかな?
私は、「わたしがこの世からいなくなっても、いつかわたしと同じ魂がこの地球に現われる」所や「今起こっている事はすでに起こっている」所でヴォネガットの「時間等曲率漏斗」を思い浮かべました。