ハイブリッド・チャイルド(大原まりこ)

ISBN:4150303932
これは面白かったです。名作ですね。好きです。
相対する感性が寄木細工のように組み合わさっていて、それがきちんと昇華されて美しい作品になっている、といった印象を受けました。一体、最後どんなところに物語の結末が辿り着くのがまったく分からない構成と世界観に酔うことが出来ました。大原さんのこの頃に書かれた作品を、他にも買って読んでみたいです。

白い断頭台(田中芳樹)

主人公はチリで行われたスキー大会に参加する。しかしそれは視聴率を狙った、テレビ側の皆殺し計画だった。
――というストーリー。設定がめちゃくちゃすぎだぁ(笑) これはギャグとして読むべきかと途中で思ったり。いくらなんでもテレビの視聴率のためだけに、有名選手をあんなに殺す人はいないのでは・・・。田中さんって得手、不得手が、はっきりと別れやすいんだなあとあらためて感じました。


ところがそんな設定の無茶を差しおいて、「生きのびる」ためのサバイバルというのは、個人的に好きなシチュエーションの小説なので、面白かったのです、これが。ああ……。
「クリムゾンの迷宮」あたりが好きな人は、好きなタイプの小説かもしれない。

五十一番目の密室(ロバート・アーサー)

こ、この小説は……有栖川有栖さんの「46番目の密室」の原型ではないかっ! まさかそういう小説が本当にあるとは思わなかったー。しかも、に、似ている……。自ら元ネタをバラしてしまう有栖川さんって、すごいなあと思う。私だったら出来ない。


有栖川さんの小説「46番目の密室」では結局「究極の密室」とはどういうものだったのか明かされないのだけれども、この小説では明かされるのだろうか? 読んでいてそこのところが一番気になるところでした。そしたら暴かれた!
なんと、××××××だった。(ああ書けないのがもどかしい)
えっ、えっ、ええええ。50年前の作品だとしてもこれが究極の密室というのは少し無理があるのではないか……。
有栖川さんが作品内でこのトリックを作っていたら、一体どんな事になっていたやら。
とりあえず、犯人があんなにあっさり反抗を自供したのには驚きました。
あとこの本は作家がたくさん出てくるという内輪ネタもやっています。面白い人には面白いのかも。

偽のデュー警部(ピーター・ラヴゼイ)

ISBN:4150747016
バラノーフは妻を殺して自由になるため愛人と船に乗り込んだ。そこで軽い気持ちでつけた偽名のせいで、元腕利きの刑事と間違えられ、事件を解決しなければならなくなる。


これがピーター・ラヴゼイか。ううむ……。さすが個性にあふれてるな。
「ダイナマイトパーティーへの招待」は合わなかったのだけど、本書は有名な作品だと聞いて挑戦してみた。たしかにこれは傑作だ。
だけど……自分と微妙にピントが合わない。なんだろうこの感覚。すごく不思議だ。完全にアウトじゃないけど、どうしてここに来ないんだあ、と地団駄ふみたくなる微妙にズレた角度に球がきた感じがします。
でもストーリー的にはとても面白かったです。もしかしたら再読したらまた印象が変わるのかもしれない。


まずは人物の書きかたがとにかく特徴的だった。贅沢に人物や風景の描写をとりいれて、ゆっくり紳士的に物語を進めていくあたりが、ジャック・フィニィを連想させました。


登場人物達が、また口が上手い。みんなどうしてこんなに会話が上手いのか。あんなに中身的にはふわふわしている人たちなのに、どうして会話だけはこれ程決まったセリフが言えるのかと、主人公カップルのウォルターとアルマを見ていてつくづく思いました。二人とも状況に流されやすいタイプなのに、台詞だけ聴いてると、非常に有能で知的で深く物事を考えていてとても経験豊かな人みたいだ。
そのギャップが違和感の原因かもしれない。ああいう幼い内面の人達があれだけ立派なセリフを言えるだろうかという。それともイギリス人はどんな人でも口が上手いのかも。(なわけ無いか)

訳もとても上手かったです。全体的に「洗練されている」という印象を受け、旅行しながら読むのに向いている小説かもしれないです。

復讐の女神

ハートのない復讐者、コーゴを追う三人の能力者と、復讐をしなければならなかった男の物語。再読。
最初に三人の能力者を順々に紹介していく、格好良いけど最初は筋立てがはっきりしない構成。面白かったです。焦点がはっきりしないで進んでいくので、超能力者側に感情移入すればいいのか、逃亡者側に感情移入すればいいのか、これは過去の話なのか現代の話なのか、曖昧なのに"カッコよかった" という感覚だけは鮮やかだ。やはり文体の勝利なのかもしれない。
この作品はゼラズニィによるコードウェイナー・スミスパスティーシュなので、渋さや格好良さに磨きがかかっているのは当然といえば当然なのだけども。
そして最後の三行でどんでんがえしがくる。どんでんがえしが……きてるはずなんだけど、実は「復讐の女神」という存在をきちんと理解してないのでオチもきちんと理解出来ていない気がする。……ああ、ここでもギリシャ神話の壁が(単に自分の常識の壁か)。それでも迫力を感じてブルッときました。この小説は明らかに長編向けの素材なのに短編で書いちゃうんだものなあ。チェスをしている所の会話が好きです。

裁かれる女(連城三紀彦)


こ、これは最初から最後まで面白くてあまりの事に驚いた。
××トリックで感動したのは初めてかもしれない。
まずは、文体におやっ? と。最初は作者名を見ないで読み始めて、外国の文体みたいだなと気になって作者を見てみたら、連城さんで、連城さんってこういう文章を書く人だったっけ、それともわざと文体を変えたのかな、だとしたら凄いなと思った。
そしてこの途中のなんともいえない、奇妙な味風味で進んでいくところ。夢なのか? 現実なのか? そしたら、最後にこうくるかあ。
変にロアルド・ダールなどを重ねていてそっち系のオチばかり考えてしまい、全く展開を予想する事が出来なかったので驚いた。ああ見事にだまされました。拍手。